妄想小説家panのブログ。

素人の小説です。

プライド番外編【佐々木セイヤの話②】

その後、形式上は澤口たちに謝って貰えたけれど、顔を見れば納得しているようには思えなかったし、二度と話すこともないだろうと思った。

 

とりあえず、くだらない嫌がらせがなくなって学校に通いやすくなった。

 

カズキや島田たちは、クラスに友達がいない僕を時々、遊びに誘ってくれたりした。

帰りに一緒に帰ったり、休日に少し遠出してみたり。おかげで、つまらなかった中学生活が少し楽しくなっていた。

 

その時、カズキがいつも一緒にいるグループに美香という女の子がいて、カズキのことが好きみたいだと聞いた。

何かとみんな気を使って、遊ぶ時に2人をペアにしてやったり、周りから見たらあからさまなように見えるのに、カズキは彼女の想いに気づいていない様子だった。

 

それでも

 

羨ましいと思った。

 

そうやってあからさまに好意を示せて、周りが応援してくれて

 

羨ましいと思った。

 

 

 

 

 

澤口たちのいじめは無くなったけれど、それでもカズキが学校に来ない日は緊張して胃が痛くなる。

 

僕は完全に依存してしまっている。

 

進学する時も、僕はカズキと同じ地元の公立高校を受験した。

 

勉強は好きでそれなりに出来る方だったから、担任には他の高校を勧められたけど

 

特にこれといってやりたいことも無かったし

 

何より、守ってくれる人がいないことが不安だった。

 

親は僕の好きなようにしたらいいと言ってくれていたし、素直に友達と一緒のところに行きたいんだと言ったら、母に至っては喜んでいた。

 

僕が中学生になってからは友達の話を家でしなかったので、心配していたそうだ。

 

 

 

 

ただし、問題はカズキ本人だった。

 

とにかく勉強が嫌いだ。

 

僕にとっては余裕の受験でも、カズキにとってはそうではなかった。

 

僕はいつもカズキの首根っこを掴んで机に座らせて休み時間や放課後に勉強を教えた。

 

「俺だけ受かるとかマジでシャレにならないからね!」

 

そう言うと、文句を言いながらも仕方なしに机に向かってくれた。

 

 

 

 

 

そして僕の努力が実って、僕達は無事に志望校に合格した。

カズキの一番の親友であった島田は、スポーツ特待を受けて全寮制の遠くの高校に進学して離れ離れになり、卒業式ではひとり友達と遠く離れるのが悲しくて大きな体で号泣した。

 

カズキも目を真っ赤にしてたけど、いつものようにヘラヘラ笑って見送っていた。

 

カズキのことが好きな美香は、科は違ったが僕たちと同じ高校に進学した。

澤口たちは、正直どこに行ったのか知らない。

 

 

 

 

 

 

 

入学式の日、知っている人がひとりもいない教室に入るのは怖かった。

俯いたまま指定された席について、周りを見渡すことも出来ずに机の上の資料を読んだ。

 

「ねえ、めっちゃ髪サラサラだね」

 

後ろから急におかしな話しかけられ方をしたので、反射的に振り返りはしたけれど、僕の眉間には深いシワが出来ていたに違いない。

 

でも、声をかけたそいつは気にもしないでニッコリ微笑んだ。

 

背が大きくて、でも睫毛が濃くて幼くて人懐っこい顔をして、犬みたいだと思った。

 

「ごめん、気持ち悪かった?」

 

「…うん」

 

「話しかけたかっただけ。誰も知ってる人いないからさ」

 

「…まぁ、俺もだけど」

 

「なんだ、じゃあ喋ろ」

 

「…いいけど…話すことある?」

 

「わかんない」そいつは無邪気に笑った。

 

 

 

名前は坂本リクトと言った。

 

「リクでいいよ」

 

実家は美容院で、自分もいずれは美容師になりたいと思っているから他人の髪が気になるのだと言う。

 

 

 

僕があからさまに不快な顔をしたのに全く嫌な顔もせずニコニコと話し続けるので、僕も態度を軟化させるしかなかった。

 

休み時間、カズキを探しにそのクラスまで行こうとするとリクも一緒についていくと言う。

 

廊下からカズキの姿を確認して入って行こうとしたけれど、なんだか不穏な空気だ。

カズキの机の周りを知らない生徒が3人取り囲んでいる。ブレザーの胸の校章を見ると、2年生のようだ。

カズキと、正面にいるリーダー格であろう生徒と睨み合う形だ。

 

「なに?どうしたの?」人懐っこいリクが傍にいた生徒に聞いた。

 

「なんか、登校の時に先輩と肩がぶつかったとかで…」

 

「なんだよそれ、くだらね…」正直なところ、怖かったけれど黙って見ていられなくて一歩前に出た時、リクが肩を押さえた。

 

「お前の友達?」そう言うので頷くと「大丈夫」と言った。

 

そして、無邪気そうな笑顔でその集団に近づいて行って「松岡先輩、何してんですか?」と声をかける。

 

「は?…なんだよリクじゃないか」リーダー格の1人は顔見知りのようだ。

カズキは知らない人間が増えたので、余計に険しい顔をする。

 

「リクの知り合い?」

「いや、こいつは知らないっす。でも俺の友達の友達なんで勘弁してやってくださいよ」

 

ニコニコと甘えたような声で話す。

 

「ね?先輩、よろしくお願いしますよ」

 

松岡は、チッと舌打ちして「あんまり目立つなよ」と言い捨てて

 

「リク、サッカー部来ないの?」

「いやー高校ではもういいっす」

「そっか、でもお前も今回だけだからな」

「ありがとうございまーす」

 

そして、教室を後にした。

 

「お前、変なのに目つけられたな」

 

リクが言うと、しばらく怪訝な顔で見上げていたカズキだったが、そのうちニヤッとして

 

「助かったよ、ありがとう」

「あれ、俺の中学の部活の先輩。めんどくさい奴だよ、気をつけて」

「お前は可愛がられてんだ」

「まーね、俺いい子だから」

 

そしてようやく、カズキは僕の存在に気づいた。

 

「お前の友達?」今度はカズキが聞いた。

 

「じゃ、俺とも友達だな」

「お前、髪パッサパサだな」

「は?」

 

僕は堪えきれずに声を出して笑った。

 

 

 

 

 

その日から、僕達3人はいつも一緒にいた。

 

カズキが家の最寄り駅近くの安いファミレスでバイトを始めたので、僕とリクが店に遊びに行ってカズキの帰りを待って一緒にカズキの家に帰り、そのまま泊まることもあった。

 

 

 

学校生活では、人懐っこいリクや何故か目立つカズキと一緒にいることで、中学の時より友達が出来た。

 

楽しく過ごしていたと思う。

 

 

 

ある日、いつものようにファミレスでカズキのバイトが終わるのを待って駅の反対側のカズキの家に向かっていた。

 

駅を通り抜けようとした時、駐輪場のあたりで何か争う様な声がして、声のする方を見ると知っている顔があった。

 

「あれ、美香じゃん」僕が言うと前を歩いていたカズキが戻ってきた。

 

「美香!なにしてんの!」声をかけると美香はこっちに気づいたけれど、それを遮るように立っている僕らと同じ制服の男もこちらに気づいた。

 

「あいつ」

 

それは、入学式の日にカズキに絡んでいた2年生の松岡だ。

 

「何してんの?」

カズキは躊躇なく近づいて、美香を背中に隠すように言った。

 

「何してるんですか?だろ?お前、ほんとなめてんな」

 

「どした?美香?」

「一緒に遊ぼうって誘われて…断ったんだけど…」

 

リクも後から近づく。

 

「先輩」今日は笑顔ではなく、少し緊張した顔で話しかけた。

 

「リク、もう次はないって言ったろ?ひっこんどけ」

 

「いやでも…」リクがそう言った瞬間、僕の目の前でリクの体が吹っ飛んだ。大きな音をたてて駐輪場の自転車と一緒になぎ倒される。

 

「ひっこんでろよって言っただろ!!!」

 

するとカズキが美香の背中を僕の方に押して、美香はつんのめるように僕のところへ走ってきたので、僕は美香の手を引っ張って少し離れた。

そして、カズキが松岡に手を出そうとした時、駐輪場に倒れ込んでいたリクが、周りに響き渡るような大声で叫んだ。

 

その声を聞いて、駅に向かう人、駅から出てきた人、もうすでに入っていた人も何事かと出てくる。カズキもそれに気を取られて動きが止まる。

 

「え、なに?」

「喧嘩?」

「お巡りさん呼ぶ?」

 

そのザワついた周りの声を聞いて、松岡はまた大きく舌打ちをして僕の肩にわざとぶつかって駅に入っていった。

 

僕達はみんな駐輪場で倒れているリクに駆け寄って「大丈夫か?」と手を差し出すと「大丈夫~」と返事をしたけど、何台もの自転車に下敷きになってしまっていたのでその自転車をひとつずつ避けた。

 

「大丈夫か?リク」カズキが抱き起こすと「な?あいつめんどくさいって言っただろ?だから喧嘩しちゃ駄目だよ…」

カズキが松岡に手を出そうとしたので、リクはわざと大きな声を出して、他の人に気づいてもらおうとしたらしい。

 

でも、そう言うと急にふっとリクの意識が遠のいて倒れた。

 

「救急車呼びましょうか」リクの声で駆けつけてくれていたOL風の女性が声をかけてくれたので「お願いします」と答えた。

 

「リク!リク!」カズキとずっと名前を呼び続けていたけれど、僕は怖くて震えた。

 

だけど、救急車が到着するとその騒ぎにリクがハッと目を覚ました。

 

一瞬、状況を飲み込めなくてボーッとしていたので念の為そのまま救急車で運ばれて行った。

 

誰かが呼んだのか警察も駆けつけて、僕達は事情を聞かれた。

 

もちろん、親や学校にも連絡された。

 

周りの目撃者の話から、僕達は松岡に何もしていないということが証明されたので、学校からは「気をつけて行動しなさい」と注意されるだけだった。

 

カズキとリクは親にこっぴどく叱られたそうだけれど、僕は心配した母に泣かれてしまい、優しい父は「お母さんに謝りなさい」と言うだけだった。

 

リクは脳震とうを起こしていたけれど、あとはちょっとした切り傷と打ち身で済んでいたので2日後には学校に来た。

 

 

「何も出来なくてごめん」僕はリクに謝った。

 

 

「なんで?自転車よけてくれたじゃん」

 

 

「そういうことじゃなくて」

 

 

「別にさぁ、喧嘩しに出ていくのがいいわけじゃないだろ?お前は女の子守ってたじゃん。充分、カッコイイよ」

 

 

それからしばらく、カズキに言われて僕は美香を駅まで送り届ける羽目になる。

 

本当はカズキが送ってやれば美香も喜ぶんだろうけれど、カズキでは目立ちすぎるし、また誰かに絡まれかねないからだ。

 

「ごめん、セイ」美香が隣を歩きながら言った。

 

「別にいいけど…美香にも恩はあるしね」

 

美香には、お化け屋敷でカズキ達と一緒に助けに来てくれた恩があるから仕方がない。

 

「でも、カズキに送って欲しかっただろ?美香は」

 

「うーん…」

 

「え?なにそれ、違うの?」

 

「カズキはあー見えて優しいし良い奴だけど…安心は出来ないよね?」

 

「あーそれはわかる」

 

「だから別に、私カズキのことが好きってわけじゃないの」

 

「え?なんで?みんなそう言ってたよ?」

 

「もうね、それは小学校の時の話。カズキとは腐れ縁なの。小学校の時って足が早かったり面白かったら女の子に人気あるじゃない」

 

「モテてたんだ、あいつ」

 

「そうだよ、今はあんな感じだけど真面目な子だったよ。両親が離婚してからかな?悪ぶるようになっちゃったのは。だから、友達としては好きだけど…そういうんじゃないんだよね」

 

「そうなんだ」

 

「セイは?好きな人は?」

 

「うーん…今はいないかな…わかんない」

 

「わかんないって何?」

 

「美香と同じようなことかな…友達だし…好きとかわかんないかも…」

 

「ふーん…」

 

駅の改札をくぐって、美香と僕は帰る方向が違うので階段の下で「気をつけて」と手を振って別れた。

 

階段を上りかけてふと気づく。

 

そうだ、今日は美香の荷物が多くて重そうだったからカバンをひとつ持ってあげていて、まだそれが僕の肩にかかっていた。

 

「やっちゃった…」

 

僕が乗る電車はもうホームに来ている。

 

たまに男らしくするとこれだ…情けない。電車を一本諦めて、僕は階段を駆け下りて、また反対側の階段を駆け上がった。

 

ホームについた時には足が震えていて、息を整えながら美香を捜すと、少し先のベンチで座っていて僕に気づかない。

 

「美香!」呼んだけれど、イヤホンをしているのか気づかない。目線は、僕が乗る予定だった反対側の電車が走り出したのを追っている。

 

僕は美香のベンチの空いた隣に預かったカバンを置いた。美香はビクッとして立ち上がり、耳からイヤホンを抜いた。

 

「え…」

美香と目が合って、逆に僕が驚かされることになる。

美香は慌てて目をこすって「なに?どしたの?」と笑って誤魔化したけど、真っ赤な目は誤魔化しきれない。

 

「ごめん…忘れてた。電車、乗らなかったの?」

 

「それよりどした?…泣いてたじゃん」

 

「なんでもない」

 

「なんでもなくない。話して。こっちが気持ち悪い。心配しなきゃいけないじゃん」

 

その時、美香が乗る電車がホームに入ってきて「ごめん、帰るね」と言ったので僕は「じゃ、俺も乗る」美香の制服の袖を引っ張って車両に乗り込んだ。

 

なんでこんなことをしてるのかわからない。

 

美香がカズキのことを好きじゃないとわかったからか?

だから優しく出来るのか?

僕はそんな卑怯な人間か?

 

自問自答しながらドアの前に一緒に立った。

 

「どうすんの?逆方向じゃん」

「お前のせいだよ。俺だって男だよ、泣いてる女の子ほっといたら駄目だろ」

 

すると、また泣き出して

 

僕は周りの目が気になったので次の駅で降りようと美香に言った。

 

 

 

 

 

 

自販機で飲み物を買って、ベンチに座る美香に手渡した。

「ありがとう」

美香も人の目がなくなったので、遠慮なく顔にハンカチをあてて泣き始める。

 

どうせ、しつこく聞いても泣いている理由は答えてくれないだろうから

とりあえず泣き止むまでは付き合おうと、僕はリュックから読みかけの本を出して「話したくなったら話して」と美香の隣で読み始めた。

 

それから、どのくらいの時間が経っただろう。

 

数分のようにも思えるし、小一時間くらい経った気もする。

 

美香が顔を上げてこっちを見たような気がしたので本を閉じる。

 

 

 

「私、セイのことが好き」