妄想小説家panのブログ。

素人の小説です。

【W】another story KENGO④

「なんでおにいも買ってきたの?」

 

恵が僕のお土産に眉間にシワを寄せる。

 

「お揃いでいいじゃん」

「きもっ!」

 

結局、あれからもう一度改札を出てお土産を探したら、駅の土産物売り場に展望台と同じぬいぐるみが売っていて、それをふたつ買った。

 

恵の分と、僕がナナミとお揃いにするつもりでもうひとつ。

 

おかげで、帰りの電車代がギリギリになってしまって飲み物ひとつ買えずに長い時間をかけて帰ってきたのは、もう夜の11時になるところだった。

最寄りのバス停までのバスは最終便だった。

 

母は、恵に遅くなると聞いていたから「おかえり」とだけ言った。

どうせ何処へ行ったのか聞いても、ろくに答えないと思っているからだろう。

 

恵は部屋で勉強していたので、お土産を渡して充電器を返した。

 

そして部屋に帰って、ぬいぐるみのタグをハサミで切って、勉強机の椅子に座らせて写真を撮った。

 

《ナナミ見て》

《一緒だ》

《うん》

 

ナナミからも、出窓に座らせた、その空色のうさぎのぬいぐるみの写真が届いた。

 

その写真を見た頃には、もうすっかり起き上がる力がなくて、重く疲れた身体のまま、いつの間にか眠ってしまっていた。

 

 

次の日、僕は熱を出した。

 

家に誘いに来た篤志は呆れながら「どこ言ってたんだよ、昨日」と聞いた。

「観光」

「嘘つけ」

「家出」

「うるせぇ、家出なんかする馬鹿はどこの馬鹿だ」

「お前がな…痛い痛い!ごめんて!」

布団にくるまっているところに、篤志が体重をかけて座る。

「とりあえず、一昨日と昨日の配り物ここ置いとくから見ろよ」

篤志はテーブルに何枚かのプリントを置いて、カバンを持って出ていこうとしたけど、振り返って「水分取った?」と聞く。

「取ってません…起きるのだるい」

「ダメだろ、馬鹿」

そう言って、自分のカバンから水筒を出してベッドに投げた。

「あぶなっ!ていうか水筒なんか持ってってんの?」

「今日から部活復帰するから」

「そうなんだ」

「暇だしな。いつまでもダラダラしてらんないの、俺は」

「え?嫌味?」

 

 

「お前はお前のペースでいいだろ別に」

 

 

 

篤志からもらった水筒のお茶を飲んで眠ると、今度は汗をかいて、気持ち悪さで目が覚めた。

身体は重くて、でも気持ち悪くて、ベッドから這うように出たけど動けない。

「おにい、ごはん食べれる?」

恵が部屋に入って来て、返事も出来ない僕を見て慌てて駆け寄ってくる。

「ママ呼んでくる」

そう言って部屋を出ていく。

「ママ!やばい!おにいが死にかけてる!」

 

勝手に殺すなよ。

 

頭がクラクラしていたけど、今度は母が部屋に入ってきて「大丈夫?」と額にひんやりした手を置いた。

その額の冷たさが気持ちよくて、小さい時を思い出すような気がする。

「気持ち悪い…」

「吐きそう?」

「大丈夫…」

母の呼び掛けに返事して目を開けると、母の後ろから覗いている見知らぬ男の顔に驚いて、つい跳ね起きた。

そのせいで急に三半規管が無理やり拗られたようになって、急な吐き気がする。

すると、その見知らぬ顔が背中をさすろうとしたので手を弾き返した。

 

「誰だよ」

 

まあ、だいたい考えればわかることで。

 

大方、母の付き合っている相手なんだろう。

 

僕が外で会おうとしないから、家に呼んだんだろう。

 

「勝手に部屋に入ってくるな」

 

その時の母の悲しそうな顔は、今まで見たこともなかったかも知れない。

 

母の恋人に嫉妬したわけじゃない。ただ、知らない人間に僕の安全なこの家族という空間に入って欲しくなかっただけだ。

 

最悪だ。

 

みんな僕のことを心配してくれてるのに。

 

僕は最悪だ。

 

勝手に学校をサボって遠くに出かけて、人の多さに疲れて熱を出して、全部僕のせいなのに人に八つ当たりして。

 

 

《健吾、熱どう?下がった?》

《まだ無理》

 

あれから、母はそんな僕を介抱してくれて、氷枕を替えて、吐き気が落ち着くまで傍で見ていてくれた。

 

僕は、何故か意地になって、ありがとうもごめんなさいも言えずにいる。

 

今は、ひとりで真っ暗な部屋で

 

自分なんていなくなればいいんだと思っていた。

 

自分さえいなくなれば、みんな幸せなんだろうって思い始めた。

 

ナナミに、そんな心の内を話すと

 

しばらく考えているようで返事はなく

 

僕はそれを待つまでに、また眠ってしまった。

 

 

 

朝、目覚めるとまだ頭は重かった。

 

ナナミからは一言、返信が入っていた。

 

 

 

《だったら、私と一緒に死んでくれる?》

 

 

 

 

《うん、いいよ》