妄想小説家panのブログ。

素人の小説です。

2021-03-23から1日間の記事一覧

われても末に逢はむとぞ思ふ⑪

それからしばらくして、渉が借りていた部屋を引き払うための片付けを手伝うことにした。 連絡を取るついでに、間宮も手伝いに呼んだ。 間宮は渉に会った時、強めに頭を叩いて「心配かけやがって」と怒った。 渉たちには子供もいなかったし、2人暮らしであまり…

われても末に逢はむとぞ思ふ⑩

潮風が顔に強くあたって、砂が舞った。 僕は真っ直ぐ海を眺めていたけど、その砂が目に入りそうで顔を背ける。 その顔を背けた先にいるあいつは、舞い散る砂も強い風も気にしないで、ただ真っ直ぐ前を向いて、線の細い儚げな横顔を見せていた。 次の日の朝 …

われても末に逢はむとぞ思ふ⑨

渉と別れてから、すぐに季節は夏を迎えた。 その夏は、今世紀最高だとか、史上最高だとか、毎年同じフレーズで騒いでいるような気がするけど、そう言いたくなるくらいの激しい暑さだった。 でも、そんな夏もあっという間に過ぎて、また少し夜が肌寒くなった…

われても末に逢はむとぞ思ふ⑧

朝になって、カーテンの隙間から漏れる光に目を覚ますと隣に渉はいなかった。熱はすっかり下がったみたいで頭も軽くて、思い切り背伸びをした。 洗面所で顔を洗っていると、玄関のドアが開いて携帯を手に持って渉が帰ってきた。 「…大丈夫だった?」 「うん、な…

われても末に逢はむとぞ思ふ⑦

無機質な、電話の音と、キーボードを叩く音が響く中、その声は僕の頭上から柔らかくおりて来た。 「航平さん…ちょっといいですか」 僕はその顔も見ないで「なに?瀬川さん」と答える。 「ちょっと…時間ください」 「どのくらい?」 「…30分…いえ、10分でいいです」 腕…

われても末に逢はむとぞ思ふ⑥

思っていた通り、その次の日の修也のシャツやネクタイの色も、雪乃のブラウスやスカートも、昨日とまるっきり一緒だった。 結婚記念日の次の日に家に帰らないで浮気相手と外泊なんて、呆れたものだと思う。 「こっちが見てて困っちゃいますよね」 菜々美も呆れ…

われても末に逢はむとぞ思ふ⑤

「そんな絶望したみたいな顔するなよ、あの時と同じだな」 僕の顔の横に両腕を立てながら、見下ろして渉が言った。 「2度と近づかないって言っただろ」 「覚えてるよ。だったら無視すれば良かっただろ?」 僕が目を逸らして黙り込んでいると、渉は僕から離れて、テ…

われても末に逢はむとぞ思ふ④

それから、僕はずっと本当に平凡に普通に生きてきたけど、高校生時代のことはなんとなく心の何処かでトラウマのようになっていて、思い返したくはなかった。 卒業アルバムも、一度も開かないで押し入れに仕舞い混んだ。 でもそのトラウマは消えることなく、…

われても末に逢はむとぞ思ふ③

「あの時、本当はちゃんと踏ん張れたんだ…でも…このまま落ちたら…辞められるって思った」 「なに言ってるかわかんない…なんでだよ…辞めたかったら辞めたら良かったじゃないか」 僕がそう言うと、渉はさっきまでとは打って変わって静かにこう言った。 「航平はさ……

われても末に逢はむとぞ思ふ②

その翌日、教室で会った渉はいつもと変わらなかった。 僕の方を向きもしないで、いつもの仲間といつのように教室の後ろの席で笑っていた。 「うるさいな、あいつら」 「聞こえるよ、やめろよ」 僕の隣の席の川田が、登校して席に着くなり僕に向かって渉たちを見…