妄想小説家panのブログ。

素人の小説です。

2021-02-01から1ヶ月間の記事一覧

remember anotherstory【蓮⑤】

でも、亮太の唇が次は僕の首を這った時、亮太の息が少し荒くなるのを感じて、少し怖くなって手が震える。 怖かったけど、離れたくはなくて、思わず腕にしがみついた。強くしがみつきすぎて、右の手首が鈍く痛んだ。 「怖い?」震える手に気づいて、亮太が聞く…

remember another story【蓮④】

5日ほどして、僕は神野に自分から連絡する勇気もないし、連絡する理由も思いつかないし、ただまた会いたい気持ちだけを持ち続けて過ごした。 姉が退院の日を迎え、僕も手伝いに駆り出された。 「れんにいちゃん」 やはり一緒に連れてこられて退屈していた裕太…

remember anotherstory 【蓮③】

神野は立ち止まって、しばらく僕の顔をじっと見て、少し怖い顔で言った。 「ねぇ、なんで質問なの?」 「え...」 「そうやってさ、人の答えとか反応次第でまた誤魔化そうとするんでしょ?そういうの嫌いだよ」 確かにそうだ。 僕はずっとそればっかりだ。 相手の反…

remember another story【蓮②】

金曜日の夜、アルバイトを終えて帰ろうとすると携帯が鳴った。実家の母からだった。 電話を取らなくても、内容はだいたいわかっていた。 歳の離れた姉が3人目の子供を産むために昨日から入院していたので、きっと産まれたという報告なんだろう。 「もしもし?…

remember anotherstory 【蓮①】※BL表現あり注意※

中学生の時、好きになった人がいた。 国語担当の新任教師で、若くてノリがいいから生徒からも人気があって、背が高くて、男臭くなくて綺麗な顔をしていた。 授業中には、教室中を歩いて生徒たちの様子をよく見てくれて、ひとりひとりにしっかり寄り添って教…

【remember】 another story⑨❝完結❞

「蓮が会いたがってるけどどうする?」 最後の一冊を棚に納めて、手をパンパンと払って、神野はこっちに向き直った。 「会わないよ、もう面倒なことは嫌だよ…あいつまだ学生だし、まだ親から奪うわけにはいかないし…仕方ないよ」 「そんなこと言って、聞くとは思…

【remember】another story⑧

「あんた最近、ずっと機嫌悪いね」 「おかげさまで煙草が増える一方ですよ」僕はクミと話しながら、喫煙所の灰皿に3本目の煙草を思い切り押し付けて消した。 「彼女と別れたんだったら、また次いけばいいじゃん」 「いやもういいや、なんか疲れたわ」 詩織のことを忘…

【remember】 another story⑦

いつものように、身勝手な時間と身勝手な都合で詩織は僕の部屋に来ると言いだした日。 その連絡が来た時は僕はまだ仕事を終えて帰ろうとしていたところで「無理だよ、まだ帰れないよ」と言うと 「待ってるから」 と詩織は電話を切った。 詩織が僕のことを待つと…

【remember】another story⑥

沙和の家に一度立ち寄って、沙和が着替えを取りに行く間、マンションの前の道路に車を停めて待った。 見上げると、真っ暗だった部屋の窓にひとつ灯りがつく。 我ながら、どれだけ考えても恥ずかしい。 泣きながら、ひとりになりたくないから泊まってってくれ…

【remember】 another story⑤

昼間に会ったあの若い男は、まだ大学生だと言った。授業の合間に時間をみつけて来たそうだ。 今日は学校の帰りにアルバイトがあるから、出来れば遅い時間がいいと言っていたので、仕事帰りに沙和と晩御飯を食べに行こうということになった。 「名前も忘れてた…

【remember】 another story④

最初から、あなたはただの浮気だと言われていた。男の気配を隠そうとする気なんて1%も無くて、それどころかわざと嫉妬させて喜んでいる。 そのくせ、そうやって僕の腕を噛んで、自分の痕を残そうとする。 身体だけの関係なら、もっと素直でわかりやすくて従…

【remember】 another story③

死んだやつのことなんて早く忘れればいいのに。思い出して浸ったって生き返るわけじゃない。 なんて そう思ったけど、それは俺にとってまだ大事な人が死んだことがないからわからないだけなのかとも思う。 祖母が死んだ時は、大好きな祖母だったけどもう年齢…

【remember】 another story②

志麻の事件も時間が経つと、ほとんどその話をする者はいなくなった。 ただ、営業で他社に出向いた時などは向こうは興味津々で聞いてきたり、時にはそんな社員がいるようなところは信用ならんと文句を言われたりすることが殆どで、辟易としていた。 おかげで…

【remember】another story①

急なカーブが続く山道を、早く帰りたいと焦る気持ちを抑えながら慎重に走る。 明日は仕事があるのに、すっかり帰るきっかけが掴めずに遅くなってしまった。ナビの帰宅予定時刻は日付を超える時間を指していた。 祖母が亡くなって、急遽有休をもらって3日ほど…

remember⑩❝完結❞

電話の内容はわかっているから、出るのは憂鬱だった。なんて答えればいいのか、ちゃんと話が出来るかわからない。 「もしもし?」 「沙和?どうなってるの?志麻は何したの?今、会社に警察が来て…みんな動揺してる…沙和は知ってるの?」 私は大きく息を吐いて、…

remember⑨

店を出て、駅の方やタクシー乗り場を探す。 タクシー乗り場には列が出来ていたから、もしかしたらもう駅の中へ入ったんだろうか。 それとも、まだどこかへ行ったんだろうか。 ふと思いついて、まさかと思いながら店に戻って裏口につながる狭い路地を覗くと、…

remember⑧

部屋に帰ると、安心したのかやっぱり少し疲れていたことに気づいて座り込んでしまった。 「ごめん、本当に…連れ回しちゃって」 「いいよ…許すからペットボトル転がってるの見なかったことにしてくれる?」 「そんなんでいいの?」 朝、私のために買ってきてくれた…

another story⑦

家に帰れるようになった頃には、もう日が落ちようとしていて、私は郁人の1日を無駄にしてしまったことが申し訳なくなって、重い気分のまま郁人の運転する車の助手席に乗り込んだ。 すると、ふわっと微かに芳香剤ではなく自然な花の香りがして後部座席を振り…

remember⑥

次の休みの日に、少し時間を空けて欲しいと言われて、複雑な想いを抱えたまま、その前の日の夜はどうしても眠れずにいた。 あの日、郁人は私に「帰らないで」と言って裏口から仕事に戻って、私は表から入って行ったけど、カウンターには座らずに奥の2人がけの…

remember⑤

次の日、仕事に行くと私と志麻が男の取り合いで大喧嘩をしたという噂が飛び交っていた。 志麻は気性が荒くて気分屋で、みんな持て余すところがあったからみんなの同情は一手に私に注がれていた。だから幸い、突然に仕事を休んだことも咎められずに助かった。…

remember④

仕事は珍しく定時に終わった。 基本的に、定時に終わった時は晩御飯には時間も早いので郁人のいる店には寄らずに家に帰ることが多い。 残業で疲れた時にご褒美のつもりで通っている。 でも、クミの言うことがどうしても頭から離れなくて、帰ろうか店に寄ろう…

remember③

でもある時、仕事で組んでいる仲間の大きなミスによって同じチームの私もクレーム処理や上層部からの叱責に巻き込まれることになり、数日かけてようやく事が治まった時、心身ともに疲れて立ち寄るのは、やはりあの古くて静かなあの場所だった。 「いらっしゃ…

remember②

「いやいやいやいや、ないわないない!」 次の日、仕事の昼休みに同僚のクミと休憩室でごはんを食べながら昨日のことを話した。恋人だと思っていた人がそうではなかったというところから、郁人に花を買ってもらったところまで。 私は他人に話してすっきりした…

remember①

「俺たち、そんなんじゃないじゃん?」 そう言われたのは、私の28歳の誕生日だった。 1年間、恋人だと思っていた男は私がそうだと思い込んでいただけで、向こうはただの遊び相手だったらしい。 誕生日なのに、おめでとうも何もないから少し拗ねたら、誕生日と…

【W】another story KENGO⑨【完結】

《健吾、ちゃんと帰ってる?生きてる?》 《私は生きてるよ》 《健吾も生きてくれるよね?》 《また、いつか会えるよね》 良かった。 ちゃんとナナミは生きていたし、生きて欲しいという僕の想いも届いていたみたいだ。 《うん、またいつかね》 《それまで、…

【W】another story KENGO⑧

本当に迎えに来ると思わなかった。 僕はただ、帰宅ラッシュが始まって人が増えてしまったのが怖くなって、急にひとりになったのが怖くなって、長い時間ずっとそこで動けなくなっていた。 雨が降り出して、寒さに震え始めた頃。 「遠すぎるよ」 力強くて暖かい…

【W】another story KENGO⑦

震える手をずっと握って、ナナミを病院の玄関まで連れて行った。 「いっておいで」 「うん、待っててくれる?」 「待つよ」 ナナミは目を真っ赤にしながら、不器用に回転ドアに入っていった。 カサカサと、乾いた落ち葉が僕の足元を無でていく。 ナナミを待つ間に…

【W】another story KENGO⑥

夢を見た。 学校の屋上で、ナナミと僕は手を繋いで飛行機を見上げている。 僕の右手と、ナナミの左手が黒いリボンで結ばれて、屋上の端っこにふたりで並んで、目を合わせて微笑みあって 飛んでいく飛行機を追うように、同時に身体を前に傾けて お互いの手を…

【W】another story KENGO⑤

ナナミとふたりで、一緒に死のうと約束した日から少し気持ちが楽になった気がした。 僕が思っていた通り、自分の中の拗れに拗れて、どう吐き出していいかわからない不安を伝えたいことが、死にたいというその短い言葉にこめられているんだとわかる。 でもだ…

【W】another story KENGO④

「なんでおにいも買ってきたの?」 恵が僕のお土産に眉間にシワを寄せる。 「お揃いでいいじゃん」 「きもっ!」 結局、あれからもう一度改札を出てお土産を探したら、駅の土産物売り場に展望台と同じぬいぐるみが売っていて、それをふたつ買った。 恵の分と、僕が…