妄想小説家panのブログ。

素人の小説です。

【W】another story KENGO⑦

震える手をずっと握って、ナナミを病院の玄関まで連れて行った。

 

「いっておいで」

「うん、待っててくれる?」

「待つよ」

 

ナナミは目を真っ赤にしながら、不器用に回転ドアに入っていった。

 

カサカサと、乾いた落ち葉が僕の足元を無でていく。

 

ナナミを待つ間にも、1台の救急車が落ち葉を踏んで入ってくる。

救急車が開くと、幼い子供を乗せたストレッチャーがガラガラと慌ただしく僕の目の前を通り過ぎた。

付き添っていた母親は、ドラマや映画みたいに名前を泣き叫ぶことはなく、ただただ生きた心地のしない顔で、一緒に救急入口のドアに吸い込まれて行った。

 

《生きてた、良かった》

 

ナナミからDMが届いた。

 

《良かったね、お母さんの傍にいてあげて》

《待っててくれるの?》

 

《うん》

 

 

 

そう答えて

 

 

 

僕は、その場を後にした。

 

 

 

なんだか

 

 

僕ひとりが、彼女を彼女の家族から奪ってしまうのが怖くなった。

 

ナナミは優しいから、本当はお母さんのことも弟のことも大切で、大切だからこそ、不甲斐ない自分を責めて生きてる。

 

僕と死んだって

 

みんな悲しいだけだ。

 

そんな当たり前のことを考えることすら出来ないくらい、僕の気持ちがすり減っていただけだ。

 

きっと、ナナミもわかったはずだ。

 

弟が死ぬかも知れないと思った時の気持ちを自分で味わったから。お母さんの気持ちを考えてあげられたから。

 

ナナミはきっと、もう死ねない。

 

僕はどうしよう。

 

自分のことなのに、自分のことが何もわからない。

 

 

《健吾どこ?》

 

ナナミからすぐにDMが届いた。

 

《どこ行ったの?》

 

どんな不安な顔で捜してるだろう。

 

その不安な顔を思うと、元の場所に走って戻りたくなる。

 

《ナナミ、大丈夫だよ》

《健吾、待っててくれるって言ったじゃん》

 

 

《ナナミ、死んじゃ駄目だよ》

 

 

《なんで?健吾はどうするの?だったら健吾も死なないよね?》

 

 

《さよなら、ナナミ》

 

 

僕はそこでDMの通知を切った。

 

 

歩き疲れて、歩道脇の植え込みに座りこんで、段々と人の増えて来た駅を眺めながら、ナナミのことを考える。

 

嘘をついてごめん。

 

でも、一緒に死にたかったのは本当なんだ。

 

大好きだから、一緒に死にたかった。

 

でも、大好きだから死なせたくなかった。

 

でも、今の僕には彼女を明るい未来に導く力はないんだ。自分のことすらわからないのに。

 

だから、ナナミの元を去ると決めた。

 

僕の携帯には、朝からいくつか着信が残っていた。恵と、母から。

行先は何も言わずに出てきたし、恵は何かを察して不安そうだった。だからきっとすぐに母に話したんだろう。

 

でも、かけ直す気にはならなくて、ポケットにしまおうとした時にまた電話が鳴った。

 

「どこにいんの?健吾」

 

篤志からの電話に、答えられなくて黙り込んでしまった。

 

「心配してる、お前のお母さんも妹も。俺も心配してる」

 

「…わかってる」

 

「どうしたいの?健吾は」

 

「どうしたいって?」

 

「わかんないなら帰ってこい、一緒に考えてやる」

 

篤志の言葉に堪えていた涙が溢れて、慌てて顔を覆う。

 

「どうしても死にたいんだったら…俺が最後まで見ててやるよ、知らないとこで死なれるよりその方がマシだよ」

 

「なんでだよ…僕のことなんか放っておけばいいだろ?」

 

「弱いものは守ってやるのが当たり前だろ」

 

我慢出来ずに、知らない街で知らない人達ばかりの中で、声をあげて泣いた。

 

「どこにいんの?健吾。ひとりで帰って来られる?」

 

泣きじゃくりながら居場所を告げる。

 

篤志は「なんでそんなとこにいるんだよ」と呆れていたけど、もう一度「ひとりで帰れるか?」と聞いた。

 

「帰れない…疲れた…怖い」

 

「わかった…待ってろよ」