妄想小説家panのブログ。

素人の小説です。

2021-02-09から1日間の記事一覧

【W】another story KENGO⑨【完結】

《健吾、ちゃんと帰ってる?生きてる?》 《私は生きてるよ》 《健吾も生きてくれるよね?》 《また、いつか会えるよね》 良かった。 ちゃんとナナミは生きていたし、生きて欲しいという僕の想いも届いていたみたいだ。 《うん、またいつかね》 《それまで、…

【W】another story KENGO⑧

本当に迎えに来ると思わなかった。 僕はただ、帰宅ラッシュが始まって人が増えてしまったのが怖くなって、急にひとりになったのが怖くなって、長い時間ずっとそこで動けなくなっていた。 雨が降り出して、寒さに震え始めた頃。 「遠すぎるよ」 力強くて暖かい…

【W】another story KENGO⑦

震える手をずっと握って、ナナミを病院の玄関まで連れて行った。 「いっておいで」 「うん、待っててくれる?」 「待つよ」 ナナミは目を真っ赤にしながら、不器用に回転ドアに入っていった。 カサカサと、乾いた落ち葉が僕の足元を無でていく。 ナナミを待つ間に…

【W】another story KENGO⑥

夢を見た。 学校の屋上で、ナナミと僕は手を繋いで飛行機を見上げている。 僕の右手と、ナナミの左手が黒いリボンで結ばれて、屋上の端っこにふたりで並んで、目を合わせて微笑みあって 飛んでいく飛行機を追うように、同時に身体を前に傾けて お互いの手を…

【W】another story KENGO⑤

ナナミとふたりで、一緒に死のうと約束した日から少し気持ちが楽になった気がした。 僕が思っていた通り、自分の中の拗れに拗れて、どう吐き出していいかわからない不安を伝えたいことが、死にたいというその短い言葉にこめられているんだとわかる。 でもだ…

【W】another story KENGO④

「なんでおにいも買ってきたの?」 恵が僕のお土産に眉間にシワを寄せる。 「お揃いでいいじゃん」 「きもっ!」 結局、あれからもう一度改札を出てお土産を探したら、駅の土産物売り場に展望台と同じぬいぐるみが売っていて、それをふたつ買った。 恵の分と、僕が…

【W】another story KENGO③

「ありがとうございます」 お礼を言って、反対側に移動すると山の中にお城の天守閣が見えた。 《あるよ、お城》 《じゃ、そこから見下ろして》 《見下ろすの怖いんだけど》 《頑張って。見下ろしたらゴルフの練習場があるでしょ?》 お城から視線を落としてい…

【W】another story KENGO②

次の日の朝、僕は学校への道のりをほぼ篤志に引きずられるように歩いていた。 「やっぱ休む」 「お前が行くって言ったんだろ?ここまで来たら帰るな」 電車に乗ったら人の多さが気持ち悪くなって、学校の最寄り駅に着いた時にはもうすでに引き返したくなった。 …

【W】another story KENGO

街で出会った不良と喧嘩したり 困っているおじいさんを助けたら神様だったり 食パンくわえた美少女とぶつかって恋が芽生えたり 転校生が絶世の美女だったり そんな青春、どこに落ちてんのかなと、ひとり暗い部屋で布団にくるまったまま古い映画を観ながら思…