妄想小説家panのブログ。

素人の小説です。

われても末に逢はむとぞ思ふ⑪

それからしばらくして、渉が借りていた部屋を引き払うための片付けを手伝うことにした。 連絡を取るついでに、間宮も手伝いに呼んだ。 間宮は渉に会った時、強めに頭を叩いて「心配かけやがって」と怒った。 渉たちには子供もいなかったし、2人暮らしであまり…

われても末に逢はむとぞ思ふ⑩

潮風が顔に強くあたって、砂が舞った。 僕は真っ直ぐ海を眺めていたけど、その砂が目に入りそうで顔を背ける。 その顔を背けた先にいるあいつは、舞い散る砂も強い風も気にしないで、ただ真っ直ぐ前を向いて、線の細い儚げな横顔を見せていた。 次の日の朝 …

われても末に逢はむとぞ思ふ⑨

渉と別れてから、すぐに季節は夏を迎えた。 その夏は、今世紀最高だとか、史上最高だとか、毎年同じフレーズで騒いでいるような気がするけど、そう言いたくなるくらいの激しい暑さだった。 でも、そんな夏もあっという間に過ぎて、また少し夜が肌寒くなった…

われても末に逢はむとぞ思ふ⑧

朝になって、カーテンの隙間から漏れる光に目を覚ますと隣に渉はいなかった。熱はすっかり下がったみたいで頭も軽くて、思い切り背伸びをした。 洗面所で顔を洗っていると、玄関のドアが開いて携帯を手に持って渉が帰ってきた。 「…大丈夫だった?」 「うん、な…

われても末に逢はむとぞ思ふ⑦

無機質な、電話の音と、キーボードを叩く音が響く中、その声は僕の頭上から柔らかくおりて来た。 「航平さん…ちょっといいですか」 僕はその顔も見ないで「なに?瀬川さん」と答える。 「ちょっと…時間ください」 「どのくらい?」 「…30分…いえ、10分でいいです」 腕…

われても末に逢はむとぞ思ふ⑥

思っていた通り、その次の日の修也のシャツやネクタイの色も、雪乃のブラウスやスカートも、昨日とまるっきり一緒だった。 結婚記念日の次の日に家に帰らないで浮気相手と外泊なんて、呆れたものだと思う。 「こっちが見てて困っちゃいますよね」 菜々美も呆れ…

われても末に逢はむとぞ思ふ⑤

「そんな絶望したみたいな顔するなよ、あの時と同じだな」 僕の顔の横に両腕を立てながら、見下ろして渉が言った。 「2度と近づかないって言っただろ」 「覚えてるよ。だったら無視すれば良かっただろ?」 僕が目を逸らして黙り込んでいると、渉は僕から離れて、テ…

われても末に逢はむとぞ思ふ④

それから、僕はずっと本当に平凡に普通に生きてきたけど、高校生時代のことはなんとなく心の何処かでトラウマのようになっていて、思い返したくはなかった。 卒業アルバムも、一度も開かないで押し入れに仕舞い混んだ。 でもそのトラウマは消えることなく、…

われても末に逢はむとぞ思ふ③

「あの時、本当はちゃんと踏ん張れたんだ…でも…このまま落ちたら…辞められるって思った」 「なに言ってるかわかんない…なんでだよ…辞めたかったら辞めたら良かったじゃないか」 僕がそう言うと、渉はさっきまでとは打って変わって静かにこう言った。 「航平はさ……

われても末に逢はむとぞ思ふ②

その翌日、教室で会った渉はいつもと変わらなかった。 僕の方を向きもしないで、いつもの仲間といつのように教室の後ろの席で笑っていた。 「うるさいな、あいつら」 「聞こえるよ、やめろよ」 僕の隣の席の川田が、登校して席に着くなり僕に向かって渉たちを見…

われても末に逢はむとぞ思ふ①

潮風が顔に強くあたって、砂が舞った。 僕は真っ直ぐ海を眺めていたけど、その砂が目に入りそうで顔を背ける。 その顔を背けた先にいるあいつは、舞い散る砂も強い風も気にしないで、ただ真っ直ぐ前を向いて、線の細い儚げな横顔を見せていた。 「渉、もう帰…

remember anotherstory【蓮⑩】

「蓮はちゃんと亮太さんが好きで、決してたぶらかされたとか騙されたとかじゃないって、認めざるを得ないのよ。だから、私が両親にはちゃんと言うから…すぐには無理かも知れないけどちゃんとわかってもらうから許してくれる?」 僕が亮太のほうを見ると、その…

remember anotherstory【蓮⑨】

すると、後ろから誰かが追って出てきて、呼び止められた。 振り返ると、さっき僕に対応してくれた女の人と、亮太の友達だと言う男の人がいて、僕はその人を見たことがあった。 最初に亮太と出会った時に、亮太と一緒にいた人だ。 高畑と名乗ったその人は、僕…

remember anotherstory【蓮⑧】

舞香の誕生日を祝いに行った次の日、僕は落ち込んだ気分のまま学校の授業を終えて、そのままアルバイトに行った。 その日は忙しくて、閉店時間を過ぎても片付けが終わらず、終電ギリギリに電車に乗って帰ったけど、駅から家までのバスはもう終わっていた。 …

remember anotherstory【蓮⑦】

次の週末は、亮太の家に引っ越すための手伝いをしてもらうことになった。とはいえ、たいして大きな荷物もないので毎日細々とちょっとずつ片付け始めて、金曜日の夜にはほとんど荷物がまとまっていた。 ただ、住んでいる部屋を引き払って友達の家に引っ越すと…

remember anotherstory【蓮⑥】

金曜日の夜、アルバイトを終えてから、意外にも僕は初めて亮太の家に行った。 亮太の家は、駅からは少し距離があるので僕がひとりで行くには少し不便だった。亮太が言うには、少し不便でも同じような家賃で部屋が広い方がいいからだそうだ。 印象的だったの…

remember anotherstory【蓮⑤】

でも、亮太の唇が次は僕の首を這った時、亮太の息が少し荒くなるのを感じて、少し怖くなって手が震える。 怖かったけど、離れたくはなくて、思わず腕にしがみついた。強くしがみつきすぎて、右の手首が鈍く痛んだ。 「怖い?」震える手に気づいて、亮太が聞く…

remember another story【蓮④】

5日ほどして、僕は神野に自分から連絡する勇気もないし、連絡する理由も思いつかないし、ただまた会いたい気持ちだけを持ち続けて過ごした。 姉が退院の日を迎え、僕も手伝いに駆り出された。 「れんにいちゃん」 やはり一緒に連れてこられて退屈していた裕太…

remember anotherstory 【蓮③】

神野は立ち止まって、しばらく僕の顔をじっと見て、少し怖い顔で言った。 「ねぇ、なんで質問なの?」 「え...」 「そうやってさ、人の答えとか反応次第でまた誤魔化そうとするんでしょ?そういうの嫌いだよ」 確かにそうだ。 僕はずっとそればっかりだ。 相手の反…

remember another story【蓮②】

金曜日の夜、アルバイトを終えて帰ろうとすると携帯が鳴った。実家の母からだった。 電話を取らなくても、内容はだいたいわかっていた。 歳の離れた姉が3人目の子供を産むために昨日から入院していたので、きっと産まれたという報告なんだろう。 「もしもし?…

remember anotherstory 【蓮①】※BL表現あり注意※

中学生の時、好きになった人がいた。 国語担当の新任教師で、若くてノリがいいから生徒からも人気があって、背が高くて、男臭くなくて綺麗な顔をしていた。 授業中には、教室中を歩いて生徒たちの様子をよく見てくれて、ひとりひとりにしっかり寄り添って教…

【remember】 another story⑨❝完結❞

「蓮が会いたがってるけどどうする?」 最後の一冊を棚に納めて、手をパンパンと払って、神野はこっちに向き直った。 「会わないよ、もう面倒なことは嫌だよ…あいつまだ学生だし、まだ親から奪うわけにはいかないし…仕方ないよ」 「そんなこと言って、聞くとは思…

【remember】another story⑧

「あんた最近、ずっと機嫌悪いね」 「おかげさまで煙草が増える一方ですよ」僕はクミと話しながら、喫煙所の灰皿に3本目の煙草を思い切り押し付けて消した。 「彼女と別れたんだったら、また次いけばいいじゃん」 「いやもういいや、なんか疲れたわ」 詩織のことを忘…

【remember】 another story⑦

いつものように、身勝手な時間と身勝手な都合で詩織は僕の部屋に来ると言いだした日。 その連絡が来た時は僕はまだ仕事を終えて帰ろうとしていたところで「無理だよ、まだ帰れないよ」と言うと 「待ってるから」 と詩織は電話を切った。 詩織が僕のことを待つと…

【remember】another story⑥

沙和の家に一度立ち寄って、沙和が着替えを取りに行く間、マンションの前の道路に車を停めて待った。 見上げると、真っ暗だった部屋の窓にひとつ灯りがつく。 我ながら、どれだけ考えても恥ずかしい。 泣きながら、ひとりになりたくないから泊まってってくれ…

【remember】 another story⑤

昼間に会ったあの若い男は、まだ大学生だと言った。授業の合間に時間をみつけて来たそうだ。 今日は学校の帰りにアルバイトがあるから、出来れば遅い時間がいいと言っていたので、仕事帰りに沙和と晩御飯を食べに行こうということになった。 「名前も忘れてた…

【remember】 another story④

最初から、あなたはただの浮気だと言われていた。男の気配を隠そうとする気なんて1%も無くて、それどころかわざと嫉妬させて喜んでいる。 そのくせ、そうやって僕の腕を噛んで、自分の痕を残そうとする。 身体だけの関係なら、もっと素直でわかりやすくて従…

【remember】 another story③

死んだやつのことなんて早く忘れればいいのに。思い出して浸ったって生き返るわけじゃない。 なんて そう思ったけど、それは俺にとってまだ大事な人が死んだことがないからわからないだけなのかとも思う。 祖母が死んだ時は、大好きな祖母だったけどもう年齢…

【remember】 another story②

志麻の事件も時間が経つと、ほとんどその話をする者はいなくなった。 ただ、営業で他社に出向いた時などは向こうは興味津々で聞いてきたり、時にはそんな社員がいるようなところは信用ならんと文句を言われたりすることが殆どで、辟易としていた。 おかげで…

【remember】another story①

急なカーブが続く山道を、早く帰りたいと焦る気持ちを抑えながら慎重に走る。 明日は仕事があるのに、すっかり帰るきっかけが掴めずに遅くなってしまった。ナビの帰宅予定時刻は日付を超える時間を指していた。 祖母が亡くなって、急遽有休をもらって3日ほど…