【W】another story KENGO⑨【完結】
《健吾、ちゃんと帰ってる?生きてる?》
《私は生きてるよ》
《健吾も生きてくれるよね?》
《また、いつか会えるよね》
良かった。
ちゃんとナナミは生きていたし、生きて欲しいという僕の想いも届いていたみたいだ。
《うん、またいつかね》
《それまで、一生懸命生きよう》
《うん、私も頑張るよ》
《また、健吾に会いたいから》
《ありがとう》
《僕も、ありがとう》
それから数日して、母が恋人を家に連れてくる。結婚も考えていると言った。
少し頼りなさそうで、でも優しそうで、僕に会えたことを喜んでくれて、僕は本当の父親をあまり覚えていないから比べられないけど、母が嬉しそうにずっとニコニコしていたから、反対する理由なんてなかった。
「健吾くん、僕もここで一緒に暮らしていいかな」
僕は、その人を見つめながら首を横に振った。
「一緒には住みません、僕はひとりで頑張って行くつもりなんで」
母にも恵にも何も言ってなかったから、2人ともビックリして僕を見た。
僕は、結局どうしても学校には行けないと思っていたから、学校は辞めようと決めた。そして、母の恋人に会うまでの数日のうちにアルバイトを捜して、通信販売の配送センターで商品をピックアップする仕事を見つけた。
僕にとって、あまりたくさんの人に会わなくていいのが一番の魅力だった。
そして、母が再婚して新しい父になる人が家に来る前に、ひとりで暮らせるようにしようと思っている。
ここでは、あまりに家族が優しすぎて、僕はまた甘えてワガママを言って困らせてしまうから。
怖いけど、このまま変われずに生きていく方が怖いから。
「そういうわけなんで…ごめんね、学校辞める」
母は、いつかはそう言う日が来ると思っていたんだろう、意外にすっきりとした顔をして「いいよ」と言った。
「いろんな道があるんだから、健吾は健吾のペースでいいよ」
「もし無理になったら帰って来ていい?」
「当たり前でしょ」
その後すぐに、母と学校へ行って退学の手続きをして、ひとりで教室に置いたままの荷物を取りに行った。
授業が終わって、誰もいない教室で、何故かあんなに嫌だったのに後ろ髪を引かれる気がする。相変わらず、僕の机の上には誰かの荷物が置きっぱなしだった。
教室の窓からグラウンドを見下ろすと、ちょうど陸上部が円陣を組んでいるところで、篤志を探すけどみんな同じジャージだから、よくわからなかった。
「そうだ…」
思い出した。
確か篤志が制服のブレザーをひっかけて袖口を少し破ったって言ってたっけ。
だから、僕の出番の少なかったまだ綺麗なブレザーを脱いで、篤志の椅子の背もたれにかけておいた。
少し大きめに買ったから、きっと着られると思う。
学校を辞めると言った時、篤志は怒らなかったけど、珍しく素直に「寂しい」と言った。
昇降口を出て校舎を振り返ると、たいして思い入れのないはずの光景にも少しは寂しさも後悔も感じた。
僕がもう少し強かったら、ここでもっと、みんなと同じような思い出を作れたのに。
ナナミとはあれ以来、連絡は取り合っていない。
でも、いくつかの約束をした。
必ず、生きていようということ。
死んでしまったら、必ず悲しむ誰かがここにいるということ。
そして、必死に生き抜いて、大人になったらまた会おう。
もし、また一緒にいられるなら、今度は一緒に生きていこう。
そのために、やらなきゃいけないことはたくさんある。
だから、そんな後悔は早く振り切って前に進もう。
強い光の方へ。