妄想小説家panのブログ。

素人の小説です。

2021-02-02から1日間の記事一覧

enti(エンティ)⑩最終話

部屋にひとりになって、加奈に電話をかけた。 「今、大丈夫?」 「うん」 「さっき言ってたこと、もう大丈夫だと思う。解決したよ」 「そうなの、良かった」 「うん…話すの久しぶりだね」 「ごめん、ちょっと色々あって…この前はごめん、急に帰るなんて言って怒って当た…

enti(エンティ) ⑨

バイトに復帰した迫田は僕に深く頭を下げて「悪かった」と言ってくれた。 友香には、しこたまやりすぎだと叱られて、被害届を出されなかったことに感謝しろと言われたらしい。 そして結局、加奈から連絡のないまま、2度目の水曜日になった。 「最初から遊びだと…

entiエンティ⑧

「なぁ、ちょっと」 僕は朝から友香を探して、ようやく昼頃に外をひとり歩いているところを見つけた。 「なに?」 「この前は悪かった」 僕が素直に謝ったから、振り返った時は睨みつけてきた友香も、今度は逆にきょとんとした顔をした。 「えーっと…こっちこそごめ…

enti(エンティ)⑦

顔に大きな絆創膏を貼って学校に行くのは気が引けたけど、今日は大事な授業があるから休むわけにもいかなかった。 額の方は、前髪を下ろして気休め程度に隠して、俯いて歩く。 すれ違う顔見知りや友達に声をかけられるのが面倒くさすぎて、教室に入る前にも…

enti(エンティ)⑥

「ねぇ、大丈夫?ごめんね、酔っちゃった?」 少し進んだ先のサービスエリアに車を停めて、急な吐き気に襲われてトイレに駆け込んだ。吐いてしまったら少し気分が良くなったけど、まだ体が重い。 顔を洗って外に出ると、加奈が不安そうな顔で待っていて駆け寄…

enti(エンティ)⑤

2週間空いて、その水曜日には加奈に会えることになっていて、でも時間になって急に駄目になることもあったから、あまり期待せずに過ごそうと決めていた。 その日はバイトも入っていなかったから、学校が終わってから加奈が来られる時間までどうしようか考え…

enti(エンティ)④

長い石の階段を上ると、急に視界がひらけて空気が澄んだ。 天気が良くて、程よく風が吹いて、空が絵に描いたように青い。 両親の命日がちょうど日曜日だったから、僕はひとり両親の眠っている霊園に向かった。いつもは学校やバイトがあるからと言い訳して、…

enti(エンティ)③

「ねぇ、なんで泣いてたの?」 彼女の身長に合わせて、少ししゃがんで顔を見上げると彼女はクスッと笑って 「そうやって女の子落として来たのね?意外に性格悪いね」 彼女はそう言って手を伸ばして、僕の髪をくしゃっと撫でた。 思えば、この時にすでに立場は逆…

enti(エンティ) ②

それから、近いうちにまた彼女は店に来た。 今度は夜遅く、団体で騒ぐような客はほとんどいなくなった頃、たったひとりで来た。 「ひとりって変かな」そう言ってはにかみながら。 「全然、大丈夫ですよ」 彼女は携帯をさわりながら、カウンターの端っこでなんだ…

enti(エンティ)①

もう何回目だろ。 今日、無理になっちゃった。 いつもそんな一言で軽く僕の一日を駄目にするんだ。 「もしもしー?何?また暇になった?」 電話の向こうで、幼なじみのリヒトが笑う。 「暇なら来る?もう風呂入ったから出かけるのは嫌だから」 「いいの?」 「その…