妄想小説家panのブログ。

素人の小説です。

W【番外編TOMOYA×ATSUSHI②】

「もう無理…」先に俺がバテた。

 

当たり前か、あっちは10代だ。

 

「お前、何部?」

「陸上部」

「はあ???ひとりで逃げろよ、じゃあ… 」

 

振り返って耳を済ませても、もう誰も追ってくる気配がないので足を止めて、地面に座り込んだ。

 

本当はあのまま、捕まっていた方が良かったのかも知れない。

 

高校生だから、補導されて家に帰されて終わり。その方が良かったんじゃないか。

助けてやったなんて思ってるけど、俺がこいつにいなくならないで欲しいだけなんじゃないのか。

 

ずっと、ひとりだったんだから

 

元に戻るだけじゃないか。

 

 

 

 

その日の夜、走って疲れ果てたせいか、また悪い夢を見る。

 

一番、嫌なやつ。

 

リアルに自分の子供の時の夢。

 

父親の本当の顔なんてもう全然覚えてなんかいない。覚えてるのは真っ赤な鬼のような顔。

やめて!とか助けて!とか…声が枯れるまで叫んでも泣いても、聞こえない。

 

髪をつかんで

引きずって

火で焼いて

 

《悪いことをすると地獄に落ちるんだよ》

 

保育園の先生が読んでくれた絵本にそっくりだ。

 

僕が、悪い子だからダメなんだ。

 

 

目を覚ますと、カーテンの隙間から外の明るい空が見えていたけど、部屋は薄暗い。

「気持ち悪…」なんとなく熱がありそうな気がするし喉も渇いて冷蔵庫から水を出して、口を濯ぐ。

 

アツシは昨日、部屋からは追い出した。

帰る場所が一緒なのは危ないと言って、弱みを握ってる客がやっているネットカフェに泊まらせることにした。 

 

それは半分は口実で、一緒に住んでいたら余計な情がわく。

 

ひとりに戻れなくなる。

 

犬なんか飼うもんじゃないな。

 

目の前がくらっとして足がもつれる。そしてそのまま、床に倒れ込んで立てなくなった。

 

もうなんか。

 

嫌になってきたな。  

 

全部。 

 

もう起きなくていいのにな。

 

 

そんな願いも虚しく、次に目を覚ましたのはもう夕方頃だった。  

 

顔に違和感があって、手を額に当てる。

 

「冷た!なにこれ!」

顔を上げたら、アツシがしゃがんでこっちを見てた。

「冷えピタ。熱あったから買ってきて貼った」

「お前、熱いか冷たいかしかないの?馬鹿なの?勝手に入ってきて勝手なことするなよ」

「ネカフェのおっさんが商品間違ってるって怒ってるよ」

ネットカフェの店長には、違法アダルトDVDの仕入れを頼まれる。金払いはいいので上客だが、なにしろロリコンなので気持ちが悪い。

「どれよ」

「えーっと…ツインテール美少女なぎさちゃんの中身が入れ替わってて、社長秘書シリーズになってるってさ」

「いいじゃねぇかよ、社長秘書で」

ロリコンだからね」

携帯を開くと、何回もネカフェ店長から着信が入っていた。

「じゃ、その余った社長秘書お前にあげるよ」

「いらねーよ」

「なんで?興味無いの?え?思春期だろ?見ないの?」

「見ないし、いらない」

「反抗的だな、お前」

「心配して損した」

顔をそむけて不機嫌に言った。

 

「死んでるかと思った」アツシは後ろを向いて、目をこすった。