妄想小説家panのブログ。

素人の小説です。

W【TOMOYA×ATSUSHI④】

高校生の時…とは言っても1年も行ってなかったけど、ちょっと仲良くなったやつがいた。たまたま、隣の席にいたやつが真面目そうで人あたりが良さそうだったから声をかけただけだ。

 

そいつ…タクは、扱いやすそうだなと思ったのに、意外と厄介なやつで、他の単純なバカとは違って思う通りにはいかないどころか、俺の平穏を崩そうとして来る。

 

その中途半端で、なんの役にも立たない正義感が大嫌いだった。

 

せっかく楽しい高校生活を送ろうとしていたのに、あいつのせいで引きずり降ろされたようなもんだ。  

 

いや、最後は悪いのは俺だ。

 

誰にも見せたくなかった、知られたくなかったことに、汚い土足で踏み込まれて、どうしても我慢出来なくて、衝動的に俺を目の敵にする教師の家に火をつけた。

 

隠してきた古傷を曝されて、微かに残ってた理性が飛んでしまったんだ。

でも、罪の意識なんかない。

やっちゃったな…その程度だ。

 

タクを恨んでるのは、単なる逆恨みだ。逆恨みというより、普通に生きてることに嫉妬してたんだろうと思う。

 

だから、本当に偶然に再会した時は複雑だった。だから、ちょっと脅かしてやりたかった。

 

普通の幸せな日常を人に壊されるかも知れない、その恐怖心を味あわせてやりたかっただけだ。

 

俺の顔を見た時のあいつの顔、あんなに嫌そうにしなくてもいいじゃないかって、笑えたけどちょっとだけ寂しかった。

 

だから、もう二度と会いたくなかったけど、俺の客の中にちょっと気になる奴がいて、そいつの後をつけたら、タクの彼女の店で働いてた。

 

タクは気のいい奴だし、きっとその彼女もそうなんだろう。

 

だから、悪い奴につけこまれる。

 

 

 

 

しかも、俺のことが嫌いで仕方ないくせに、恐れているくせに、目の前から消えて欲しいくせに

 

愛する女のために助けてくれと言うんだ。

 

 

 

 

 

 

世間は狭いもので

 

タクの婚約者理沙の店で働いてた《晴人》と呼ばれてるあいつは、俺の弟らしい。やっぱり、ろくな人間じゃないのは同じ血が流れてるだけあると感心する。

 

シャブ中な上に、一方的に理沙に惚れて、愛情を歪ませて拗らせて、今、俺の前でタクと理沙を殺そうとしてる。

 

弱っちいくせに、タクは理沙の為に闘おうとするけど、頭のおかしくなった奴にかなうわけがない。

 

思っていた以上にヤバいことに、アツシを巻き込んでしまったと後悔する。連れてくるべきじゃなかった。

下手をしたら殺される。

 

だけどアツシは、逃げずに自分の役目を果たそうとしている。

 

でも、晴人…いや、弟の友樹は目ざとくアツシの動きに気づいて、突然アツシの顔を蹴りあげる。

 

「殺すぞ!!」その言葉に頭に血が上って、思わず俺は友樹につかみかかってアツシから引き離したけど、冷静になるべきだった。

 

「友樹!」

「その名前で呼ぶな…俺がなんで名前変えたと思ってんの?お前、全部忘れたの?」

「は?」

「親父はいつも殴る前にそうやって名前を呼ぶんだよ!その名前で呼ばれると怖いんだよ!…特に親父そっくりのお前に呼ばれるなんて反吐が出る…今だったらぶっ殺してやるのになぁ!!!」

 

気が付いたら、足をナイフで刺されていた。

 

さすがに、刺されるのは痛い。

 

逃げる友樹を見て、咄嗟にアツシが追いかけようとする。

床に転がりながら、必死で叫んだ。

 

「行くな!!!!!」

 

俺が親父そっくりなんてふざけるな。

 

俺は顔なんか覚えてないんだよ。

 

 

 

俺とタクが部屋を飛び出して友樹を追ったけど行先なんてわからない。 

 

足はどんどん痛くなる。痛いと言うより重い。

 

部屋に戻ったのかもしれないとタクが言う。部屋には理沙とアツシだけを置いてきた。

アツシは忠実だから、きっと逃げないでいるはずだ。

逃げろ。

頼むから逃げていて欲しい。

 

その願いはもちろん届かず、戻った時にはアツシが部屋のベランダで友樹と揉み合い、苦しそうにこちらに手を伸ばして助けを求めていた。

 

もう、まともに歩けない。でも、全力で守ると言った。

俺がそう言ったんだ。

 

どうやって部屋まで帰ったのかすらわからなくなるほど朦朧としていた。自分の息を吐く音しか聞こえない。

 

気がついたら、友樹とベランダで掴みあっていて、その時にはもう俺はこいつを殺してやると決めていた。生きて償うとか、更生させるだとか、綺麗事だ。

 

タクが「殺すな!」と止めた。

 

殺さなきゃ終わらないと言った。

 

アツシは俺の目をジッと見ながらタクを押さえつけていた。

 

あいつはわかってる。

 

俺が死ぬ気だと。

 

「弟を殺すのか」友樹が目を見開いて言った。

 

「一緒に地獄に堕ちてやる」そう言うと、しばらくそのまま目を見据えて睨んでいたけど、一緒に落ちるその一瞬、俺の肩を掴んでいた手の力を弛めて、静かに目を瞑った。

 

タクがアツシを振り切って、こっちに手を伸ばしていた。

 

その後ろで、アツシの聞いたこともないくらい大きな叫び声が聞こえた。

 

 

 

 

 

やっと死ねると思ったのに、すぐには死なせてくれないものだ。

喉の奥からこみ上げてきたものを吐き出して、息が吸えなくなる。

 

友樹は少し離れたところに落ちて、きっともう動かない。

 

タクは死ぬなと言うけど、それは無茶な話だ。

 

タクには、ひとつ頼み事をしておいた。

 

アツシを家に帰して欲しい。

 

きっとあいつは幸せな家の子なんだ。だけど、反抗期を拗らせて、若い衝動で飛び出して、悪い大人に捕まってしまっただけだ。 

 

だから、正義感の強いタクには頼みにくいけど、あいつは何も知らないし、何もやっていないことにして、家に帰らせて欲しい。

 

息を切らせて、目の前に跪いて、アツシが泣いてる。

 

泣くなよ。

 

馬鹿だな。 

 

お前、悪い大人に利用されたんだぞ。

 

でも、楽しかった。

 

もう少し、一緒にいたかったな。

 

でも、これでもう悪い夢なんか見ないで眠れるんだから、もう心配しなくていいだろ?

 

お前だったら、わかってくれるよな。

 

「…ごめんな」

 

月並みだけど

 

俺の分まで生きて欲しいって

 

言わなくてもわかるかな…

 

 

 

 

 

【完】