妄想小説家panのブログ。

素人の小説です。

2021-01-28から1日間の記事一覧

W【番外編TOMOYA×ATSUSHI①】

また夢だってわかってる。 痛い。 怖い。 やめて。 いくら叫んでも声が出なくて苦しい。 自分が呻く声が地獄から這い上がろうとする亡者のようだ。 もう何も痛くないはずの古い傷が疼いて、爪で引っ掻いて、新しい傷が蚯蚓脹れになる。 あと、どれだけこんな…

W【番外編ATSUSHI⑤】

もう、死んだんだ。 遠くから、誰かが通報したのかサイレンの音が何重にも重なって聞こえる。 タクは、いつも友也がそうしたように無言で顎をあげる。 友也の眠ったような顔を僕は目に焼き付けて、集まり始めた野次馬に逆らうように走った。 走って走って、…

W【番外編ATSUSHI④】

「なんだ…見たことあると思ったら俺の弟じゃないか、友樹」 弟。 友樹と呼ばれたこいつは、人あたりの良さそうな無邪気な笑顔をしながら、仁王像のように平気で人を踏みつけてナイフを向ける。 そして 「お前が逃げたせいで地獄だった」友也にナイフとともに突き…

W【番外編ATSUSHI③】

一緒の部屋に住むのはリスクがあると友也が言い出して、僕は無情にも身ひとつで追い出された。とはいえ、裏通りのネットカフェの店長に友也の顔が効くらしく、個室をひとついつも空けていてくれた。個室とはいえ、安くて古い小さな店だから、申し訳程度にド…

W【番外編ATSUSHI②】

あれからまた眠って、起きたのはちょうど昼になった頃だ。ふとベッドを見ると、今度はきちんと眠れたようで友也はまだ寝息をたてている。 それを見て少し安心したので、昨日コンビニで買ってもらった甘いパンを食べる。 「あまっ…」 友也が起きて、僕にこれか…

W【番外編ATSUSHI①】

昨日の夜は、迫る定期テストの勉強が全く進まず、自分で決めた課題を済ますことが出来たのはもう明け方だった。 おかげで、学校までの坂道を必死で自転車をこぐ羽目になってしまった。 高3になって、みんなが受験モードになっていく中で、僕は、長く休んで…

W【13】

理沙は無事だった。 17歳の 理沙本人は顔も知らない、ひとりの家出少年が守りきった。 何が起こったのか、これから理沙に全て話していかないといけない。 友也と初めて出会った時のことから全部。 そして、その形は歪み切っていたけど、晴人が理沙を愛してた…

W【12】

「遊ぼうよ、お兄ちゃん…」 確かに晴人は、友也に向かって笑顔でそう言って、僕から足を下ろした。 友也は、頭の中で何かがつながったようなスッキリとしたような顔をして同じように笑って見せる。 「なんだ…そうか…名前変えられたら流石にわかんないよ…友樹」 「…

W【11】

友也が言うには、晴人のことも全くの偶然だと言う。 晴人のことは他の客から紹介されたらしい。 今のように直接のやり取りはしていないため、晴人は友也を知らない。だけど、友也は晴人の顔を知っていたので、理沙の店に来た時に驚いたそうだ。 「これは…あく…

W【10】

翌朝、目を覚ますと理沙がまだ腕の中で眠っていたから、そーっと慎重に腕を抜いてベッドを抜け出した。 僕が仕事に行く前に起こせばいいだろうと、ひとりで理沙の分も朝食の準備をして、コーヒーをいれる。 正直なところ、食欲は全くなくてとりあえずトース…

W【9】

それから何日も、友也は現れなかった。 本当に人を小馬鹿にする奴だ。 いきなり現れて、人の生活を脅かすくせに見つけようとすると見つからない。 子供が出来るという報告を兼ねて実家に寄った時に、母に友也の住んでいた公営団地はもう住む人もいなくなり取…

W【8】

「どうしたの?タク」 「なんでもない、寒いだけ」 ソファーに座って、隣で眠りそうになっている理沙を引き寄せて頭に鼻先をつけると、シャンプーのいい匂いがした。 「じゃれつかないで」 「ごめんごめん」 「あの…さっき、晴人の話したでしょ?」 「うん」 「本当はその…

W【7】

倒れている川上を介抱して、落ち着きを取り戻させて話を聞いた。 「お前がやってんの?いつもいつも」 川上は腹を押さえながら、涙目で首を横に振る。 「お前だけじゃないのか…なんでこんなことすんの?友也に言われてやってんの?」 「違う…」 「じゃ、なんでだよ」…

W【5】

今、僕の目の前にいる友也は首元の広いTシャツに薄手のブルゾンを肩を抜いてだらしなく着ていて、身体中の傷を隠そうとしない。 山岸の家が燃えたことは、その次の日の朝には学校中の話題になった。山岸を嫌う生徒は多かったし、昨日の友也への仕打ちを見て…

W【4】

友也は2日ほど欠席して、学校に来た頃にはもう吉見達はクラスで完全に孤立した。 友也は変わらずで、なぜ休んでいたのか聞くと「制服をクリーニングに出してたから」とあっけらかんと言った。 「だって、めちゃくちゃ臭かったんだよ!教室のゴミ箱に弁当の残り…

W【3】

吉見はバイクのひき逃げ事故によって数日は学校を休んでいた。その間、吉見のグループがおとなしかったわけじゃない。 体育の授業を終えて更衣室に戻ると、友也の制服が無くなっていた。友也はため息をついてジャージのまま教室に戻り、教室の後ろのポリバケ…

W【2】

理沙と一緒に住み始めたマンションの1階にあるコンビニでパンを買って、部屋に帰ったのはもう日付がかわってかなり経ってからだ。 テレビをつけても深夜アニメか通信販売くらいなので、すぐに消した。 「明日は休みでしょ?私は仕事に行くけど」 「うん、ゆっく…