妄想小説家panのブログ。

素人の小説です。

W【4】

友也は2日ほど欠席して、学校に来た頃にはもう吉見達はクラスで完全に孤立した。

 

友也は変わらずで、なぜ休んでいたのか聞くと「制服をクリーニングに出してたから」とあっけらかんと言った。

 

「だって、めちゃくちゃ臭かったんだよ!教室のゴミ箱に弁当の残り捨てないで欲しいよ!」

 

あの時以来、吉見達への嫌がらせがエスカレートする。

 

靴や教科書が燃やされたり、階段から突き落とされそうになったり。 

 

そして、その度に友也がやったんだと言うのだが、学校では常に友也は僕か他の誰かと一緒にいるからアリバイがあって、誰も吉見達の主張を信じない。

 

そして、吉見と一緒にいることでそういった被害に合うことを恐れた仲間たちは、吉見から離れるか、登校拒否になるかどちらかだった。吉見はひとりになり、やがて吉見も学校に来なくなる。

 

クラスの中での友也の敵は、完全に排除された。

 

いつも明るく笑顔を絶やさないクラスの人気者。

 

みんな、友也が好きだった。

 

クラスでの敵はいなくなったものの、目立つ友也は何かと先輩や教師に目をつけられることも多かった。

 

友也のくせ毛を校則違反だとしつこいくらいに指摘して来ていた生徒指導の山岸。それをクラスのみんなが庇うので、それがまた気に入らないのか指導はエスカレートした。

 

ある時、後ろから友也の髪を鷲掴みにして引きずって行こうとしたこともある。

今どき、そんな教師自体が信じられない話だが、教員生活も長く他の教師も逆らえずに野放し状態だった。

 

その時は、教頭が山岸をたしなめて友也を解放したのだけど、その後も何かしら因縁をつけて来た。

 

夏休みが近づいた頃、教室のクーラーはほとんど効かず、みんな制服をだらしなく着崩してうなだれているというのに、友也だけは長袖のカッターシャツで、体操着も上下ジャージを着ていた。

 

僕が友也に聞いた話では、強い日差しでアレルギーが出ると言う。だから、学校にも許可をもらっているというけど、そんなことに耳を貸す山岸ではなかった。

 

見る度に暑苦しい、脱げと執拗に言い、友也が許可をもらっていると言ってもアレルギーなんて嘘をつくなと叱る。

 

「俺だって暑いに決まってんじゃんね」それでも笑っている友也が、僕は少し怖かった。

 

吉見を睨んでいた顔や、冷たく見下ろしていた顔、それを思い出すと、友也は決して怒らないわけじゃない。

あの顔と、この笑顔のスイッチが切り替わるタイミングがわからない。

 

そしてある日、事件が起こる。

 

その日は本当に暑かった。正直、僕もこの暑さの中で頑なに長袖を着る友也を見ると暑苦しくてイライラするくらいだった。

 

そんな暑さのせいだろう、体育終わりで廊下を歩いていると山岸が近づいて来て「暑苦しいんだよ!いい加減にしろ!」と友也の長袖のジャージを脱がせようと右の肩を掴んで、袖を抜いた。

 

不意打ちだったので、友也はバランスを崩して廊下に転がる。

これはさすがにやりすぎだと、僕は山岸の肩をつかんで止めた。

「学校に許可もらってるって言ってるじゃないですか!」そう言って、廊下に倒れた友也に駆け寄ると友也は倒れた時に乱れたジャージを慌てて直した。

 

僕が見てしまったからだ。

 

ほんの数秒だったけど、半袖の下から見えた右腕には、ひどい火傷の痕がケロイド状に拡がっていた。

 

さすがにその時は友也も笑顔を見せることはなくて、ただ僕から目を逸らし、立ち上がってその場から去っていった。

 

山岸はそれを見ておらず、駆けつけた生徒や他の教師と言い争っていた。

 

「友也!」僕が更衣室に追いかけて行くと、後から来ていた生徒はまだ山岸と言い争っているので友也ひとりしかいなかった。

 

「大丈夫か?」

「何が?」

「何がって…」

「転んだこと?それともこれ?」

そう言って、ジャージを脱いで半袖の腕を肩までめくって見せる。僕が見た右腕の火傷の痕や何処かに打ち付けたような痣は両腕や肩まで何個もあり、所々、青黒く変色しているところもあった。

 

友也はニヤッと笑って素早く半袖のTシャツを脱ぎ、制服のカッターシャツに着替えた。一瞬だったけど、背中も同じだった。

 

そう言えばいつも、あいつは端っこのほうで必ず僕の背中に隠れるように着替えていたっけ。

 

そして、ガヤガヤと更衣室にみんなが帰ってくる声が聞こえると「内緒ね」と、また笑いながら僕の肩を叩いた。

 

これがきっかけとなり、友也は僕にみんなには見せることのない自分の抱えた闇を見せるようになる。

 

その夜、山岸の自宅が燃えた。