妄想小説家panのブログ。

素人の小説です。

W【3】

吉見はバイクのひき逃げ事故によって数日は学校を休んでいた。その間、吉見のグループがおとなしかったわけじゃない。

 

体育の授業を終えて更衣室に戻ると、友也の制服が無くなっていた。友也はため息をついてジャージのまま教室に戻り、教室の後ろのポリバケツの蓋を開ける。

思った通り、制服はゴミにまみれてそこに捨てられていた。

 

「こりねぇなぁ…」

 

友也は冷たい目をして確かにそう言った。

 

その瞬間だった。

 

制服を取り出して机に置いて、ポリバケツをグッと掴んだかと思うと、傍でニヤニヤして見ている吉見の仲間たち目掛けて思い切り投げつけた。

 

「婆ちゃんが必死で買ってくれたんだよ!!!何してくれてんだ!!!!」

 

更衣室で着替えを終えて戻って来た女子の悲鳴が教室に響く。

 

いつもの友也と違う行動に、吉見の仲間たちは反撃も出来ず驚いた顔のまま、ゴミまみれになった。

昼食終わりの5時間目の後だったから、生ゴミなんかも入っていたし、最悪だ。

 

「やっていいこと超えてんだよ」友也は肩で息をしながら冷たい目で、それを見下ろしていた。

 

 

その後、吉見達と友也は駆けつけた教師たちに職員室へ連れていかれ、その場にいた僕達も担任から事情を聞かれた。

いつもニコニコして温和な友也が暴れたので、みんな驚きを隠せない。

 

友也が教室に戻って来ると、一瞬教室内は静まり返ったけど、いつもの笑顔で「ごめん、みんな!騒いで悪かった!」と目の前で手を合わせて明るく言うので、みんな口々に「制服はやりすぎだよね」「友也は悪くないよ」「キレて当たり前だよな」と擁護した。

 

帰り道、友也はゴミ臭い制服をナイロン袋に入れて手に持って歩いた。

「婆ちゃんが買ってくれたんだ、制服」

「うち、両親いないんだよ」

「そうなんだ…死んだの?」

「…それは秘密」

「ごめん」

「いいよ」

そしていつものようにクシャッと無邪気に笑って「また明日ね」と、駅で別れた。

 

その翌日、友也は学校に来なかった。

 

クラス中、友也への同情が集まった。

 

 

あんなことされて学校なんか来たくないよ。

制服も着られなくなったんじゃない。

可哀想。

キレちゃったの気にしてるのかも。

可哀想。

お婆ちゃんが買ってくれたって言ってたよね。

訳ありだよね。

可哀想。

 

 

この日、吉見が戻って来たけれど、誰も心配の言葉をかけるどころか更にクラスから孤立することになる。

 

僕は、少し怖くなっていた。

 

このクラスの空気。

 

何かが不安だ。

 

友也にとって都合よくいきすぎていないか。

 

友也を嫌っている奴が段々と居場所を失っていくように仕向けられていないか。

 

いつもニコニコと人あたりの良い友也がキレたことも、休んだことも、結果的に同情を集めているし

 

そもそも

 

吉見に仕返しをしていたのは誰だ。

 

ひき逃げ事故も偶然なのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンビニで簡単に食べられるものを買って部屋に戻った。テーブルに置いてきた携帯にメッセージが入っている。

 

《今日、店に来る?昨日の友達が来てるよ。会う?》

 

やっぱり。

 

あいつは、僕に復讐しようとしている。

 

《今から行くよ》理沙にそう返事した。

 

 

店に行くと、土曜日ということもあって席はほぼ満席だった。それでも友也の隣の席を理沙は空けてくれていたので、躊躇いつつもそこに座った。

 

昨日と同じように無邪気な笑顔で「待ってたよ」と言った。

 

「早かったですね」カウンターの中から晴人が声をかけて来た。   

 

「うん、友達来てるって聞いたから来たんだ」

 

「へえ…」チラッと友也を見て、忙しく仕事に戻る。

 

「今、何してんの?」友也に聞くと、友也はニヤッとして「何やってると思う?」と聞き返す。

 

そして僕が黙っていると

 

「まともな生き方してるように思える?」

 

「…思わないな」

 

「だろ?期待しないでよ、相変わらず潔くクズだよ。素直に更正なんかするかよ」

 

「昨日ここに来たのは偶然?それとも…」

 

「偶然だよ、本当に偶然。これは本当…どこで何やってんだろうとは思ってたけどね」

 

「俺のこと恨んでんの?」

 

「さあね。ただ、楽しみが出来たなって感じかなぁ?」