妄想小説家panのブログ。

素人の小説です。

W【番外編ATSUSHI③】

一緒の部屋に住むのはリスクがあると友也が言い出して、僕は無情にも身ひとつで追い出された。とはいえ、裏通りのネットカフェの店長に友也の顔が効くらしく、個室をひとついつも空けていてくれた。個室とはいえ、安くて古い小さな店だから、申し訳程度にドアと壁があるくらいで、常に周りには人の気配がしてあまり落ち着かない。

友也は店長に、万が一警察や地域のパトロールが補導に来ることがあったら、何を置いても僕を逃がせと言い聞かせた。

 

一体、あの店長のどんな弱みを握ってるんだと聞いてみたら、違法アダルトの常連客だと言うから、帰る度にムスッと愛想悪くレジ前に座っている店長と目が合うと笑いがこみ上げてしまう。

 

ある日、いつもの建築現場の前で友也と仕事の待ち合わせをしていると、知らない男を連れて来た。

友也は気にするなと言うので余計な詮索はせず、いつも通りに客との取引を終えて友也の指示通りその場を離れた。

どう見ても、友也の仕事の相手じゃない。

 

普通の

 

表の世界で生きている人間だ。

 

その後しばらく時間が経って、僕がネットカフェの部屋でうとうとしていると扉の上から友也が覗いた。驚いて飛び起き、扉を開けようとしたけど「いいよ、そんな狭いとこ入りたくない」と言って1枚の新聞の記事を僕に見せた。

 

「隣の市で高校生が長いこと行方不明なんだってさ…見つかんないから情報公開するってよ」

 

新聞には、僕の顔と名前と見た目の特徴が書かれていて、小さく両親の写真もあった。

 

「どうする?帰るか?お前の母ちゃん泣いてるぞ」

 

泣いてるだろうな。

それは最初からわかってる。

 

僕が黙っていると、智也はその新聞紙をくしゃっと丸めて言った。

 

「明日辺り、ちょっと面倒な仕事があるかも知れない。来るか?」

 

僕は、やっぱり黙って頷いた。

 

その夜はどうしても眠れなかった。

 

だって、帰れるわけないじゃないか。

 

 

 

 

翌日の昼前、友也が不機嫌そうな顔をしてまた個室に現れた。

今から、急に知人に会う必要がある。大事な話になりそうだから、自分の部屋に行って電話を待っていてくれと言う。

友也には客との連絡専用の携帯があって、客の情報が漏れないように、出来るだけ部屋からは持ち出さないようにしている。持っていってもいいが、こちらの話に集中したいからだそうだ。

 

そして、呼んだらどんな手を使っても急いで来いと言い残して行った。

 

友也の部屋に帰ると、よほど急に呼び出されたのかいつもはきちんと片付いている部屋が少し散らかっていた。

 

久しぶりに人の気配のない部屋で落ち着いたけど、うっかりテレビをつけると朝のワイドショーが高校生の行方不明事件を取り上げていた。

 

“ 一体どこにいるんでしょうか…無事だといいですね”

 

 

 

その時、友也の携帯が鳴った。

戸惑いつつ出ると「あれ?いつもの声じゃないね」と言われたので、留守番だと告げる。

「あぁ、いつもの捨て駒君かぁ…」笑って嫌なことを言うその相手は、昨日の若い男の客だった。

 

捨て駒君でわかるかなぁ?ちょっと頼みたいものがあるんだけど…」

 

 

 

 

 

 

 

友也の持ち出している方の携帯に、客からの電話があったことを告げた。

すると、友也は「すぐに来い」と言う。

 

ここから、友也のいる場所まではなかなか距離がある。どんな手を使ってでも急いで来いと言っていた。

 

外に出てどうしようか悩んでいると、コンビニの前に路上駐車したマナーの悪い軽自動車がエンジンがかかったままだ。僕はそれに飛び乗った。

コンビニから慌ててガラの悪い男が出てきたけど、仕方ない。絶対に服従しろと言われてる。

 

まぁ…運転はしたことがないけどゲームセンターのマリオカートみたいなもんだろう。

 

待ち合わせの喫茶店に入り、知らぬ顔で友也の後ろに座って、例の客に拳銃を用意しろと言われたことを報告した。

 

友也の前に座っているのは、昨日の夜に見た男だ。今日は仕事中なのかスーツ姿だ。

智也がその電話の内容を話せと言うので、僕は振り向いて同じことを言った。

 

昨日の客が、拳銃を手に入れたがっていると。

 

男は眉をひそめて聞いていたけど、僕は必要なことだけを告げてまた背中を向けた。

 

そして、友也がその男をおちょくりながら話しているのを聞いていると、話が一段落したようで僕に「お前もおいで」と言って、僕のことを紹介した。

 

「こっちは昔の同級生のタク…まぁ友達かな?」

 

「いくつ?」と聞かれたが答えていいのかわからず友也を見ると軽く頷いたので「17」と正直に答えた。

 

その時、タクの携帯が鳴り、すぐに緊迫した様子がわかった。

 

友也は僕の耳元で「何でここまで来た?」と聞くので「車」と言うと「すぐ用意しろ」と言った。

 

外に出て、停めてあった車を店の前につけると2人は乗り込んできて、タクの家に向かうことになった。

 

 

 

タクのマンションの部屋に2人が先に駆け込み、それを追って入ると、昨日の客がそこにいて、どので手に入れたのか念願の拳銃を手にして友也たちと睨み合っていたが、すぐに智也に玩具だと見抜かれ、投げ捨てた。

 

そして、客の男は友也に向かって信じられないことを言った。

 

 

 

「遊ぼうよ、お兄ちゃん」