W【TOMOYA×ATSUSHI③】
「ごめんね、店長」
ネカフェ店長の苦情で商品の交換に店に寄った。もちろんちゃんと、ツインテール美少女なぎさちゃんを持って。
すると店長が「お前…これ大丈夫か?」とコソッと小さい声で言って、読んでいた新聞を見せた。
隣の市で高校生がもう長いこと行方不明なんだと書いてある。見つからないので情報公開するということだ。
「お前のとこのやつじゃないのか、この顔。面倒に巻き込まないでくれよ?」
笠原篤志。
県立高等学校2年生。
10月2日午後7時頃、自宅と反対方面の電車に乗り込むところを目撃されて以降、消息不明。
警察は事件事故に巻き込まれた可能性もあるとみて捜査している。
「違うよ」
「これは、あいつじゃないよ…」
アツシにも用があって来た。
巻き込むのは気が引けた。最初から。
個室…といっても四方を板で区切られただけの部屋を覗くと、アツシが椅子でうたた寝しようとしていた。
気配に気づいて飛び起きたアツシに、店長から取り上げた新聞を見せる。
「行方不明の高校生、笠原君…どうする?帰るか?親が泣いてるぞ」
アツシは、一瞬だけ新聞の記事に目をやって、すぐに黙ってこっちを見上げる。無言で睨む。
強情で、負けん気が強くて、若くて無謀。
弱っちいくせに一丁前に睨みつけてくる。
「面倒な仕事がある…お前も来るか…」
アツシは黙って、首を縦に振った。
明日以降、連絡するから待っておくようにと言ってその日はひとり店を出た。
いつもの近くのコンビニで煙草を買って出ると、後ろから声をかけられる。
振り向くと、あの時にアツシに絡んでいたガラの悪い連中だ。知らないフリをして出て行き歩き出すと、ふいにすぐ側の路地に押し込まれて、壁に押し付けられる。
「なんだよ、仕返しかよ…ダセェ」
俺の首元をつかんでコンクリートの塀に押し付けてくるこの男は、アツシに馬乗りになっていたやつだ。
「俺はお前にやられたせいで片耳が聞こえねーんだよ!!どう落とし前つけてくれんだよ!」
「知らねーよ…」
「あの時は不意打ちだったからな!今日はお前みたいなチビに負けるかよ」
「相変わらず人数頼りかよ」
後ろを見ると、あの時の2人と、また同じような馬鹿みたいに見た目だけ強そうな男がもう1人いた。
「あのさ…俺、加減って知らないからね」
「は?」
「思いっきり殴られたことしかないから、加減とかわかんないけど大丈夫?両方、聞こえなくなっちゃうかもな」
さすがに4人は多すぎる。
だけど、心の底から腹が立つ。
「やるなら来いよ」
あの時、俺の前でこいつらがアツシに余計なことをしなかったら。
あの時、助けなかったら
ひとりが怖くなることなんてなかったんだ。
だけど、こんなところでやられてる場合じゃない。俺が帰らなかったら、死んでしまったら、あいつはどうするんだよ。
ふざけやがって。
俺みたいなクズを信用しやがって。
なんで帰らないんだよ。
「やろうと思ったらやれるもんだな…」自分に感心してみる。
狭い路地に転がった男4人を踏みつけて外に出ようとすると、何人かの野次馬が様子を見ていた。
面倒に思って、反対側の通りに出る。
口の中が血の匂いがして、思わず吐き出す。
痛くない。
あんな中途半端な奴ら、結局は怖くて人を思い切り殴れない。わーわー怒鳴って騒いでるだけだ。みっともない。
でも、おかげで少しすっきりした。
帰りたくないなら仕方ないだろ。
一緒にやると言うなら仕方ないだろ。
俺は、あいつを守れる。