プライド【7】
「それで?リクは彼女でも出来たの?」
唐突な質問に思わずセイの顔を見た。
「前見ろ、前」
「なんだよ急に」
「なに買ったの」
「いや別に…親にだよ」
「ふーん…ま、それもそっか!遊園地のキャラクターショップで買った土産喜ぶ彼女いねーか」
「彼女いたらお前らと遊園地なんか行くかよ」
「それもそうだ」
「セイは?彼女とか作らないの?好きな人とかいないの?ほら、学校とかで」
「好きな人はいるよ」
意外な答えだった。
「え?いるの?」
「いるけど…まあ…無理かな…いいじゃん、そんなの」
聞くなと言うことか。
好きな人がいるというのは意外すぎる答えだった。
つまらないと言う割には女の子との飲み会には誘えば来るし、ごくたまに気が合えば期間は短いが付き合ったりもする。
顔もいいし金も持ってるし、僕がセイなら無理だなんて思ったりしないけどな。何が無理なんだろう。性格か?セイの性格が原因だとすれば解決策はないんじゃないか。
助手席から外を眺めるその綺麗な横顔は、寂しそうでもあったし、少し嬉しそうにも見えた。
「お腹減ったな…」
急に後部座席から声がして、僕とセイはビクッとした。
「起きていきなり腹減ったかよ」セイが振り返って笑った。
「どこか寄るか…どうしようかな」
「うなぎ屋さん行こうよ、美味しいとこ」
確かにセイの言う通り、もう少し先のインターチェンジを降りたところに有名なうなぎ屋がある。
「バカ!金ねーよ!このお坊ちゃまめ!」カズキが助手席の背もたれを軽く蹴る。
「え~食べたい~」
「いや、俺もバイト辞めて金ないよ。サービスエリア行こう。うなぎもあるかもよ?」
近くに大きなサービスエリアがあったので、僕達はそこのフードコートで夕飯にすることにした。
残念ながらうなぎは無かったので、少し不貞腐れながらセイはラーメンを注文した。
「お坊ちゃま、今の時代は倹約でございますよ」カズキが茶化す。そういうカズキも同じ店でラーメンを頼んだ。
「リクは?」
「じゃ、俺もラーメンでいいや」
結局、みんな同じだ。
オーダー待ちのチャイムが鳴るとみんな同時に立ち上がろうとしたが、カズキがセイの肩をおさえて「お前、荷物番で座ってろ」と言った。
「甘やかしすぎです、カズキ母さん」両手にラーメンの盆を持つカズキを茶化してやると
「あいつ絶対ひっくり返すだろ」と、カズキが小声で答えた。
「あれ?ヤキモチ?」
「気色わりーこと言うなよ」
そこそこの味のラーメンをのんびり食べて、僕達はまた車を走らせた。
「どうする?俺んち泊まる?」カズキが聞いた。
「いいの?疲れたし助かる。セイはどうする?」
「泊まる。疲れた」
いつものことだ。
いつもの僕たち。
何も起こらない日常。
日常であるということすら意識しないくらいの日々だった。
それでも
僕たちの知らないところで気づかないところで、僕たちは僕たちの深いところで
少しずつ
少しずつ
何かが狂い始めようとしていた。