妄想小説家panのブログ。

素人の小説です。

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

プライド番外編【佐々木セイヤの話④】

はじめての2人は、とてもぎこちなくて不器用で そして、切なかった。 はじめて触れる女の子の肌は柔らかくて、すぐに壊れてしまいそうだった。「また震えてる」と言って僕を茶化したはずの美香も、本当は少し震えていた。 震えているけれど、とても暑くて額か…

プライド番外編【佐々木セイヤの話③】

思わず、読みかけの本を床に落とす。 「俺のことが好きで泣いてんの?」 美香は赤い目をして僕の顔を真っ直ぐ見た。 「うん」 「…えーっと…なんで泣くの?」 「だって私の事なんてなんとも思ってないよね?」 正直なところ なんとも思っていない。 友達だ。 顔は人並…

プライド番外編【佐々木セイヤの話②】

その後、形式上は澤口たちに謝って貰えたけれど、顔を見れば納得しているようには思えなかったし、二度と話すこともないだろうと思った。 とりあえず、くだらない嫌がらせがなくなって学校に通いやすくなった。 カズキや島田たちは、クラスに友達がいない僕…

プライド番外編【佐々木セイヤの場合①】

初めて、僕が他の子供と違うと知ったのは幼稚園の時だったかも知れない。 同じクラスの愛ちゃんという女の子が「愛はセイヤ君と結婚するの」と言ってくれて、とても可愛い女の子だったから嬉しかったんだけど 「でも、僕は裕太くんが好き」と言った。 クラスで一…

プライド【最終話】

長かったような、あっという間だったような10年が過ぎて セイは海外留学を終えて一度こちらに帰ってきて、帰ってきているうちは僕かカズキかどちらかの家に殆ど入り浸った。 そしてまたすぐに海外に渡り、留学時代の仲間と起こした会社で仕事をしながら、セ…

プライド【14】

あたりはもう暗くなって、季節外れの海水浴場には僕達しかいなかった。 堤防に3人で並んで海の方向を見るけれど、もう何も見えず、ただただ波の打ち付ける音が聞こえる。 今からお別れ会をしよう。 海へ行こう。 そう言い出したのはカズキだったけれど、それ…

プライド【13】

怒涛の1日からしばらく経って、またカズキが僕の家に来ていた。 セイに謝りたい。 だけど、自分だけではまた本心でないことを言ってしまうかも知れない。セイの悲しむ顔を見たらまた酷いことを言うかもしれない。 だから、一緒にいて欲しい。 また酷いことを…

プライド【12】

僕は1日だけ入院して、いろんなところを検査したけれど特に問題もなかったそうで翌日には家に帰った。 父親に迎えに来てもらい、家に帰るとリビングで店を休んだ母と何故か薫さんが座って迎えていた。 いつものような部屋着と化粧けのない顔じゃなく、キチン…

プライド【11】

あの日から僕の日課が出来た。 セイの安否確認だ。 毎日、電話をして「元気か」と聞くだけだ。 時には、そのままセイの泣き言を聞くこともあるし一言で終わることもある。 そして僕は、学校とバイトが終わった夜に意を決して薫さんに会いに行くことにした。 旦…

プライド【10】

遊園地に行った日から、不思議なことにカズキやセイからの連絡が途絶えていた。 2週間ほどのことだけど、僕たちにとっては珍しいことだ。 僕は僕で、母親の店でアルバイトを始めていたから覚えることも多く忙しくしていたし、殆ど気にもせずにいた。 その間…

プライド【9】

駅を降りて商店街の真ん中あたりに差し掛かると、ちょうど母親の店から客が出てきた。中を覗くと忙しそうに立ち働いている母親が見えた。「手伝おうか?」「ほんと?じゃ、とりあえず床を掃いて使ったタオルが山積みだから干してくれる?」自分の母親の店だろう…

プライド【8】

「あ!そうだ!これ、爺ちゃんから」カズキの部屋に着いた頃には、アパートの住民はもう寝静まったのだろうか明かりのついた部屋はなく、静まり返っていた。薫さんの部屋からは、今日は泣き声は聞こえない。静かに眠れるようにと願いながら階段を静かに上った…

プライド【7】

「それで?リクは彼女でも出来たの?」唐突な質問に思わずセイの顔を見た。「前見ろ、前」「なんだよ急に」「なに買ったの」「いや別に…親にだよ」「ふーん…ま、それもそっか!遊園地のキャラクターショップで買った土産喜ぶ彼女いねーか」「彼女いたらお前らと遊園地なん…

プライド【6】

「ほんとヤバかったんだって、いや俺はお化けとか信じないよ?何がヤバいってさ、先輩が腰抜かしちゃって、その先輩が90キロはあんのよ体重!それを引きずって帰るのが大変だったの」 セイの希望で僕達は3人で遊ぶ予定を立てた。僕としては、どうせラウンドワ…

プライド【5】

目が覚めた時には、窓の外はもうすっかり暗くガラスに雨のつぶが打ち付けられていた。窓から下を見下ろすと、洗濯物はなくなっていた。父親がもう帰ってきたのだろう。リビングに降りるとソファーに洗濯物が積まれていて、父親がテレビで相撲を見ながらゆっ…

プライド【4】

「おい!リク!リクト!」2階の渡り廊下からカズキが呼ぶ声にビクッとして、思わず箒を落とす。カラン…とアスファルトに音を立てた。「キレイになったじゃん、母ちゃんが呼んでるからメシ食おう」集めた落ち葉を寄せてビニール袋に入れ、口をしばったところで僕…

プライド【3】

部屋から出てきた女性は、30代前半ぐらいだろうか。化粧けがなく無地のTシャツとデニムという地味な印象のせいでそう見えるだけで、もしかしたらもっと若いのかも知れない。化粧けはないものの、色白で長い黒髪が印象的な美しい人だった。「こんにちは、管理…

プライド【2】

「あのお母さん、いつも顔見ると謝ってくんのよ。うるさくてすみませんって。なんか隣の人にめっちゃ文句言われるらしくて…ボロアパートだから筒抜けでさ。それ聞いてこないだうちの母ちゃんが隣の部屋に乗り込んでって」カズキの母親は僕達もよく知ってる。父…

プライド【1】

「…うっせぇ…ブス」 肩が触れる距離の僕にようやく届くくらいのその小さな悪態は、この楽しい時間の終わりを告げる合図だ。僕も小さくため息をついたけれど、それは悪態の主には届かない様子だ。 「さて…」 僕が少しだけ会話のトーンより高めの声をあげると、一…